『ところで、仕事は落ち着いた?』
グラスの水を一気に飲みほして
卓己くんはカウンター席に置いてある
ピッチャーの水を注ぎ足す。
『うん。
事務所の契約は、もともと大学入学までの
3年間って事で話してたし…
引き留めはあったけどね
特にトラブル無く円満退職って感じだった。
今はケイちゃんの事務所通して
やりたい仕事数本だけ受けてるの。
授業これだけハードだと
仕事の時間って、ホント取れない…』
『そーだよな。
俺もバンドの再編成って思ってたけど
居残り実験・レポートの嵐じゃ…
何かやろうって気ぃ起きねぇ』
比較的自由な校風の公立高校に転校して
モデルの仕事をガンガンこなした。
おかげで大学への学費以上に
ここ数年の生活費もまかなえるくらい
通帳にはお金が入っている。
学業優先しますと宣言して
事務所を辞めて一線を降りたけど
ありがたいことに
今だにCMや雑誌撮影のオファーがある。
入学と同時に、
モデルの仕事はきっぱり辞めるつもりでいたのだけど
実際、オファーが入ると
やりたくてウズウズしてしまう。
モデルの仕事が好きだから…
『別に、白黒ハッキリつけなくても。
やれる範囲でやればいいんじゃない?』
とケイちゃんの一言に納得してしまった。
『こないだ見た雑誌に載ってたぜ。
ほら、今よくテレビに出てる
アイドルのミュージックビデオに
出てるんだってな…』
『ん…撮影は、もう終わったよ。
チョイ役よ、風景みたいなモン』

