『姉さんの生死より大事な用事って訳ね…
わかったわ、行けばいいわ。
その前に、アパートの鍵をちょうだい。
持ってるでしょ?今。
あそこは姉の家よ』
『あ?…おれのモノも、あんですけど』
むっとした顔で言い返えしてきた。
『あんたのモノなんて全部送り返すわよ!
早く、鍵、返して!』
今にも噛みつきそうな剣幕で
ケイちゃんは詰め寄り手を差し出した。
渋々鍵をポケットから取り出すと
彼はニヤっと笑って
ケイちゃんの手のひらに置いた。
『治ったら連絡くれって言っといて。
ま、治ったらだけどね』
ケイちゃんはひっぱたこうと手を挙げたが
彼は、ひょいと避けて出口にむかう。
『おっかねぇなぁ、あんた。
美人だけど可愛げにかけるねぇ。
そんなんだから嫁に行けねぇんだわ』
笑い声が廊下に響いた。
ケイちゃんは彼の姿が見えなくなるまで睨みつけ、黙って鍵をバックにしまった。
『こまち、おいで。
座って待ってよう…』
固まったように身動きも出来ず
立ちつくすアタシを手招いたケイちゃんは
長椅子に腰掛けふぅ…と息をつく。
アタシも隣に腰掛けた。
扉の向こうからは、物音ひとつしない。
ママがいるはずなのに
気配すら感じない。
どこからともなく
ブーンというモーター音が
微かに低く聞こえてくるだけだった。

