『ちょっと一休みしない?
喉が渇いたわ…
こまちちゃんも、おなか減ったでしょ?
えーっと、
あっ、そこに入りましょう』
長沢さんはすぐ先の喫茶店を指差す。
『はい…』
昨夜はケイちゃんが
あれも、これもと食べさせるものだから
食べ過ぎてしまって。
当然、朝は食欲が全く無かった。
だから朝から何も食べてはいない…
今日は、
バタバタ忙しかったから気も紛れ
なんとか落ち込まずに済んでいる。
でも、まだ食欲は無い。
アタシは長沢さんの後について
お店に入る。
静かに流れるピアノ音楽。
アンティークのインテリアと
オレンジ色の照明が
落ち着いた雰囲気を醸し出す。
柔らかなピアノの音色は
アタシに奈緒の姿を思い出させた。
考えたくないのに、容赦なく蘇る
奈緒の涙と、瞬くんの顔…
常に心の片隅に存在して
チクチク鈍い痛みをアタシに与える。
深く息を吐ききっても
胸を空っぽにすることが出来ない。
何処にもぶつけようが無いもどかしさと
癒されない思いを持て余し
無意識にため息が漏れた。
『私はグレープフルーツジュース。
こまちちゃんは?』

