苦い舌と甘い指先





つっこんではいけない…。何かに負けてしまう気がする。


でも、可愛らしい声の主が気になって、便所に行くふりをしながら横目でちらっと見てみる事にした。



「………」



目が合った……。



「ジュノちゃんだぁ!おはようっ」


「え?あ…おはよ……」



椅子から立ち上がる途中の、中腰の状態でのマヌケな挨拶。


さっさと便所でもどこでも行ってしまえば良かったのだが、


何が可笑しいのか、ニコニコとあたしの顔を凝視している夏輝と言う子の視線から逃れられず、ゆっくりと尻を椅子に戻した。



「……えと、何?」


「んーん。カッコいいなぁと思って」


「…はぁ」



「私、夏樹ー。なっちゃんって呼んでね?一応同じクラスなんだけど……ジュノちゃんは私のことなんて知らないよね…」


……知らないとか知ってるとかそれ以前に(知らなかったけど)



自分をあだ名で呼ばせる時点で要注意人物だと思うんスけど。



こういうブリッてる女は苦手だし、関わるとロクな事が無いのは分かっていたけど



それでも、こんなにキラキラした瞳で見つめられてしまっては…



「はぁ…。どうも……」



なんて、ペコっと頭を下げて 彼女に不快に思われない程度に拒否る事しかできなかった。