「どなた~?」
今までの喧騒が嘘の様に声を作りかえる教師に、皆でずっこけた。
あたしも苦笑いを浮かべて、『バーカ』と口パクしてくるミツに中指をたてる。
ああ、やっぱりミツが側に居ると和む。
…肥後が側に居ると、あたしが知らない人間になったみたいになっちまう。
自分が自分じゃなくなるのは、マジでもう勘弁だ。
できる事ならアイツとは顔も合わせたくない。
だって、思い出すだけで何か…顔が熱くなって…。
「ジュノ、タコみたいだ。真っ赤で美味しそう」
「…!!」
この声!!勢いよく振り向くと、案の定そこには肥後が立っていた。
先程のノックは、コイツの物だったらしい。
「何でお前…!!」
「…忘れものだよ」
はい、と手渡されたのは写生道具。
「駄目でしょ、“体育館裏に”忘れたりしちゃ」
「おま…聞いてたのか……!?」
聞き耳まで立てたのか、この男!!
変態通り越してストーカーだ!!
暴言を吐こうと口を開きかけた時、肥後がズボンのポケットに手を突っこんだまま
身体だけを前に倒して、顔をあたしの耳元に寄せた。
「……良い子だね。俺の事、ナイショにしててくれたんだ…?」
「…!!」



