苦い舌と甘い指先





「ゴメンって。…謝るだけじゃ気が済まないなら、殴っても良いしさ。

だからもう、泣くなよ…」


あたしの腕を掴んでいる手とは別の手が、あたしの髪の毛をぎこちなく往復していく。



何だよ…何でっ。


優しくすんじゃねぇよ。テメェが泣きそうな顔してんじゃねぇよ。


何だよ、マジで……っ!!


調子狂うっ!!!



「…は…初めて、だったんだぞ」


「……うん、その反応は、そうだろうね」


「大体な、何であたしなんかにそんな事するんだ!!

お前の相手なら幾らでも居るだろう!?


ほら、あのうちのクラスの女子共!!あいつらともそういう事してんだろッ!!


なのに、何でわざわざ……」



女との噂が絶えない男が、何であたしを苦しめる。もっと他に可愛い子は居るし、肥後だったら可愛い子ともヨユーでキスでも何でも出来るくせに…!


「何で…っ」



「ゴメン」



「何で謝る!!理由を聞いてんだ、あたしは…ッ!!」



叫んだ瞬間、また、唇に冷たいものが触れた。



それが肥後の唇だと理解するには、そう時間はかからなかった。




ほんの一瞬、只触れるだけの幼稚なキス。



ゆっくりと離れてから、再度肥後は『ゴメン』と呟いた。