苦い舌と甘い指先





それからはひたすら歩いて歩いて。



たまにミツに軌道修正されたりもしたけど、それ以外はずっと下向いて一直線に歩いて。


そんでやっと夏輝の『来た来た!』って声聞こえたから顔上げたんだ。



上げたんだけどさ。



「何ここ、ラブホ?」


夏輝と肥後が立ち止まっていたのは、今まで必死で無心装ってたのが無駄になる位インパクトのある城みてぇな建物の前で。


思わず思いついた言葉、そのまんま口に出しちまった。



「ジュノ、もっと言い方あんだろーが…」



「あ…わりぃ…」



確かに自分の家ラブホとか言われたらちょっと所じゃなく不快になるわ。



ミツに怒られるなんて、よっぽど酷い。



でも夏輝は笑って言う。



「あははっ!良いの良いの!!小学校の時から結構馬鹿にされてきたからさ~!気にしてないよー!!

両親がさー、成金でしかもメルヘンな感じが好きな人達で。


ホントは都心に建てるつもりだったらしいんだけど、色々揉めちゃってね。んで、郊外の良いトコ見つけてドーンと建てたんだってさ。もう小さい頃だから私は知らないんだけどね」



「…そっか。でも、でかくてカッケェよ。マジで。うちなんてここの5分の1あれば良い方じゃね?な、ミツ」


「5分の1ってお前…見栄張り過ぎ…ゴフッ」


「殴るぞ」


「殴ってはねぇけど強烈な蹴りが入りましたよ!!」



あはははは……



夏輝は笑ってくれたけど



皆分かってたんだ。気にしてない、じゃなくて


“言われる事に慣れちゃった”


って事。



皆言わねぇだけで、結構悩みとか、あるんだろうな。なんて柄にもなく思ったりして。