苦い舌と甘い指先





パンッ



乾いた空気に一つ、軽い音が鳴り響く。


見ると、肥後が何事も無かったかのような笑顔で両手を合わせていて。


「さ、行こう。寒いしね」



「…うん」


ジェントルマン宜しく、夏輝の細い腰を支えながら、優雅にあたしの前を通過した。



「そこに横たわってる屍も連れておいで」


「…チッ」



何様だテメェ。



色んな事が短時間で起きたせいで、あたしの蟻んこ並みの脳みそが悲鳴をあげている。



だから文句も言わなかったんだ。


疲れてんだよ、あたしだって。


傷ついたからとか、そんなんじゃねぇ。



二人が寄り添う姿があまりにも綺麗過ぎて泣けたとか、そんなんじゃねぇってば。




「…おらっ!!いつまで寝てんだ変態!さっさと行くぞ」


一人で必死に言い訳をしながら、ミツの腹を蹴りあげた。



「……ジュノさん…?謝罪って言葉、知ってます?」


「知らん」


「ですよねー…」


「行くぞ」



数十メートル先を歩く二人を焦点の合わない視界に捉えて


今日なんて、早く終われば良いのに。


ずっとそればっかり思ってた。