苦い舌と甘い指先




一際大きな声で怒鳴りながら、かぁちゃんをドアの向こうへ押しやり思いっきり扉を閉めた。


もう…っ!!何なんだよみんなして!!


あたしの事なんてほっといてくれれば良いのに。初めての恋…なんだから、大事にしたい。他人に茶々なんて入れて欲しくなんかない。


でも、一人じゃ何も出来ない事だって分かってる。


誰かに縋って、上手くいかない気持ちを何とかして貰いたい。


だけど、そんなのあたしのプライドが許さないんだ。



だからあたしは一人でやるしかない。これからが一番辛いんじゃないかって分かってるけど、ひとりで乗り越えるしか、無いんだ。



言えるわけの無い気持ちを消し去る為に。





「行って来ます」



結局普段通りの、ジーンズにロンTという色気もくそもない恰好が出来あがり、後悔しながらも速足で駅へと向かう。


しかし寒い。マフラーで顔を覆ってないと鼻がもげそうだ。



信号で立ち止まった時に思わず身震いをする。…と。


「寒そうだね」


声と、あたしの右側に人の気配。顔を上げると、同じ様にマフラーに顔を突っ込む肥後が立っていた。


「…おっス」


胸の高鳴りを隠すように、より一層マフラーに顔を埋める。


寒い筈なのに、なんか右腕から熱が広がっていく感じがした。



「……プレゼント」


「は?」


続きを切る様に単語だけをポツリと呟かれて、再度肥後を見上げる。


「…誰かにプレゼント、あげるの?」


「プレゼント?」