苦い舌と甘い指先




混乱するあたしを、夏樹は益々混乱させてくる。


「…ちょっと……そこに座りなさい!!」


瞳孔をメチャクチャ開きながら指差すのは、便所の端っこに並んだ椅子。


「お…おう……」



抵抗出来ぬまま、大人しく鏡と向き合う椅子に腰かけた瞬間。



「ぎゃぁっ!!何だそのハサミ!あたしに何する気だ!!」


「五月蠅いっ!ハサミじゃなくてビューラーだし!!良いから大人しくしてなさい!

今、ミツが思わず好きだって言っちゃう位、可愛くしてあげるんだから…!!」


コイツ何言ってんの!?てかビューラーって何だ!怖えぇええ!!!


顔をガッと掴まれて、あたしのまつ毛にそのビューラーとやらをあてがう。


痛さは無く、何か挟まれたと思ったら、今度はすぐにさっきのマッキーをまつ毛に塗り始めた。



「動かないでね。瞼に付いちゃう」


…何だよこれ…。視界にゴミみたいなのがばっさばっさと…。


「…おい……もう良いよ。何やってんだよお前は」


「動くな!!」


「はいっ!!」



…………塗り終わると、夏輝はもう一度ビューラーでまつ毛を挟み、ポーチから取りだしたピンであたしの短い髪をどうにかしようと試行錯誤している。


あー…何か良い匂い。これが女の子の匂いなのか?


顔に触れる指も優しくて、そんでもって細くて綺麗で。



そんな子に化粧されてるのはちょっとむず痒いけど、悪い気分じゃない。


化粧自体は興味無いんだけど。




「出来た…!!」


完全にトロンとし始めた頃、夏樹の手が止まった。


「鏡、見てみて」

満足げにあたしの前から夏輝が退くと、目の前にはメイクアーップ☆されたあたしの姿が。


こ…これは……っ!!