縋るように呟く大切な名前を、汚すわけにはいかない。 万葉。万葉。 前髪で隠している右目が熱く痛んだ。 もうそこは痛みが生じるはずがない。 古い、古い傷。 だったらこれはあたし自身の弱さだ。 ――万葉。 なのに、離れられない。 もう少しだけ、ここにいて男を、『万葉』を見てみようと言い聞かせたのを最後に、あたしの意識は眠りへと入っていった。