――そうか、俺は泣いているのか。 泣いているということに気が付くのに、少し時間がかかった。 泣くのなんて、何年ぶりだろうか。その時、やはり彼女のことを、本当に好きであったのだと知った。 だが、そう確認してしまうと、なんだかやるせない、悲しい気持ちになってしまう。 指輪の入ったカバンが、心なしか重たく感じる。 「いけない。こんなことじゃ、いけない」一人で呟いて、足を速めた。 人の群れを掻き分けながら、ずんずんと歩を進めた。行く当ても無いのに、どこに行くともなく、俺は街を彷徨い続けた。