「ただいま」


 玄関で靴を脱いで部屋に入ると、いつものように「おかえりー」と気だるそうな返事が返ってくる。


 理那と生活を始めてから、既に二週間以上が経つ。


 彼女は完全にこの部屋の生活に慣れ、毎日のようにごろごろとしている。


 家が狭くなったという問題はあるが、約束通りに夕食を作ってくれるので、その点はとてもありがたい。

 今日もテーブルの上には御飯と味噌汁、それにキャベツの浅漬けと鰯を焼いたものが置かれてあった。


 日本的な料理が多いのは、理那が昔から母親に教わっていたからだという。


 理那の実家は京都で、旅館を営んでおり、自分も実家にいたのであれば母のように女将として仕事をしていたはずだ。


 しかし、彼女はそのような世界で生活を続けるのが嫌で家を出てきたらしい。女将姿の理那を想像すると、それも満更ではない。