いつだったか、100本のバラが欲しいと冗談で言ったら、真人は本当に買ってきたことがあった。
あの照れたような笑顔が、未だに脳裏に焼き付いてる。
「ねぇ、真人。あのメッセージ…わかりにくいよ」
真人の前にしゃがむ。
愛しい人が、今目の前にいる。
…智久からのメールを見た直後だった。
もう忘れようと、真人を過去にしようと、取りかけた指輪を仕舞おうとした。
その時、気付いた。
真人からの、最後のメッセージ。
「いつ彫ったの?こんな言葉」
墓石の前に、指輪を差し出す。
内側に彫られていた言葉が、太陽に反射されて輝いた。
『Merry X'mas,My dearest lover.』
「ちゃんと受け取ったからね、恋人の証」
立ち上がって、着ていたコートを墓石にかけた。
真人は寒がりだったから。暑がりなあたしは、いつもマフラーを貸していた。
…ねぇ、真人。
あたしまだ、真人の恋人でいてもいい?
まだ、好きでいてもいい?
指輪を薬指にはめた。
もう二度と答えは聞けない。
でも毎年、このメッセージを繰り返すから。
最愛の恋人、真人へ。



