Noёl



「友梨」

引き留めたかった。
友梨の行く道が、友梨の幸せだなんて思えなかった。
俺の方が幸せにしてやれる。そんな気持ちがないといえば嘘だった。

車から体を半分出したまま、友梨は振り向いた。
友梨の瞳は真っ直ぐだった。

ひとつも、迷いはなかった。


本当の幸せなんて、きっと自分にすらわからない。

だから友梨の幸せが何なのかなんて、俺にわかるはずがない。

今友梨に言うべきなのは、引き留める言葉なんかじゃなくて。
友梨を揺らがせる言葉なんかじゃなくて。

外の空気は冷たい。
俺は精一杯の強がりで、小さく笑って言った。