「ずっと、汚い感情を抱いてたの。友梨さんだって…ずっと辛かったのに。なのにあたしは、そんな友梨さんを恨んでた。毎年…お兄ちゃんの命日の、この日は特に」
…クリスマスイブ。
誰もが浮き足立つ今日こそが、彼女が一番辛い思いをする日だったなんて。
俺は何一つ、わかってなかったんだ。
「だから、河口ならいいかなって」
唐突な彼女の一言に、俺は俯いていた顔を上げた。
真っ直ぐ前を見ていた彼女は、今度は真っ直ぐ俺を見ていた。
「河口ってさ、明るくてお調子者で、冗談ばっか言って…だから、周りを温かくするんだよね。なんだろう…空気洗浄機、みたいな」
「…俺が?」
「そう。なんかね、汚い感情とか…そういうの、消してくれそうな気がするの。だから…今日、河口となら、一緒にいれるなって」
「ごめんね、利用したみたいで」、彼女はそう謝ったが、俺にとってそれは、史上最高の誉め言葉だった。
彼女が俺を必要としてくれていた。
それが、何よりも嬉しかった。
誰もがきっと、幸せを望むクリスマス。
彼女はこの五年間、どういう気持ちで過ごしてきたのだろう。



