淡々と言いながら、彼女はゆっくりと手を合わせた。
俺も急いで彼女の隣にしゃがみ、手を合わせる。
目を閉じたまま考えていた。
彼女に兄がいたこと、亡くなっていたことなんか、ちっとも知らなかった。
学校じゃ彼女は、そんな素振りをちっとも見せないから。
「…五年前」
彼女の声が聞こえて、俺は目を開けた。
隣の彼女は、いつもと変わらず真っ直ぐに前を見ていた。
「五年前、高校生だったお兄ちゃんは死んだ。バイク事故だったの。彼女…友梨さんを送って行った、帰りだった」
『友梨さん』
俺はさっきの彼女の呟きを思い出して、並んだ赤いバラの花束に視線をやった。
このバラは、この墓に眠るお兄さんの彼女が持ってきたものだったんだ。
「あたし…許せなかったの」
不意にそう呟く彼女に、俺は顔を動かす。
彼女の横顔が、小さく歪んだ。
「友梨さんさえいなければ…お兄ちゃんは、死ななかった。友梨さんがお兄ちゃんを殺した。そうやって…ずっと、恨んでた。お葬式の日、泣きながら謝る友梨さんに、あたしは…最低な言葉をぶつけた」
その言葉が何か、彼女は言わなかった。俺も黙ったまま、あえて聞きはしない。



