Noёl



…彼女が向かったのは、さっきまで俺達がいた場所よりもっと上。限りなく、空に近い場所。

確かにクリスマスには似つかわしくない石段や石碑の間を練り歩きながら、「うち、仏教だから」と小さく言った。

キリスト教だったら、こんなにクリスマスに似つかわしい場所もなかったのかな。なんて思う自分が、妙に不謹慎に思える。


彼女の目的地は、ひとつのお墓だった。


綺麗に掃除されたその前で立ち止まる。

墓石には、ファー付きのコートがかかっていた。
静かな彼女の視線の先には、彼女と同じバラの花束が置いてある。

先に誰か来たのだろうか。
そう思う俺の心を読んだかの様に、彼女は小さく呟いた。

「…友梨さんだ」
「え?」
「お兄ちゃんの彼女」

そう言いながら、彼女は持ってきた花束を置いた。
花瓶にさすことはしなかった。

俺は彼女の背中越しに、石碑に刻まれた名前を見る。

『藤木真人』

「この墓って…」
「お兄ちゃんのお墓」