Noёl




……………

町に流れるクリスマスソングは遥か彼方。
今俺と藤木がいるのは、小高い丘の公園だ。

もうかれこれ三時間近くはこうしている。
寒さ凌ぎのために飲んだココアも、これで三杯目だ。

たまに他愛ない会話をした。
その度なるべく面白い話をチョイスし、彼女の笑顔を引き出すことに成功していた。

でもやっぱり、不意に黙る彼女の瞳は、どこか遠かった。


「寒くない?」
「あたしは大丈夫。河口こそ寒くない?」
「ちょっと寒い」
「ごめんね、付き合わせて」

「いや、俺が付き合いたいって言ったんだし」、急いで訂正すると、彼女は眉を八の字にして笑った。
やっぱり綺麗だった。

「そろそろ…行こうかな」

そう言って立ち上がり、彼女はバラの花束を手に取った。
俺も倣って立ち上がる。

「河口…どうする?」
「どうするって?」
「今から行くとこ、あんまクリスマスに相応しくないけど」

彼女の表情から、着いてきて欲しいのかその逆なのかは読み取れなかった。
でも俺は、直感で言う。

「藤木がいいなら…一緒に行くよ」

彼女は少しだけ視線を落として、そして優しく微笑んだ。
真意はわからない。でもなんとなく、彼女は今一人になりたくないんじゃないかと思った。

寂しいんじゃないかと、思った。