花束が完成し、代金と引き換えに渡す。
彼女は受け取って、「可愛らしいお店ですね」と微笑んだ。
あたしも同じように微笑み、「ありがとうございます」と返す。
優しい微笑みを残して、彼女は店を出ていった。
恋人へ渡すのだろうか。
彼女の薬指のシルバーが、バラの花束の間で輝いていたから。
彼女を見送った後、あたしは軽く肩を落として椅子に座った。
今日の仕事は終わり。
店じまいして、ケーキでも買って帰ろう。
少し傷んでいたことから包みかねた一本のバラを手にし、帰り支度をするために立ち上がる。
不意に携帯の存在を思い出した。
エプロンから取りだし、片付けながら電源を入れる。
未読メールを見た瞬間、あたしの心臓は思い切り跳ねた。
全ての動作が止まる。
未読メール、一件。
差出人は…渡部。
…走り出すのは早かった。
急いで店じまいをして、あたしはクリスマスソングの溢れる町に飛び出した。



