Noёl



…まず彼女が向かったのは、町外れの小さな花屋だった。

こじんまりとしたお店だったけど、女の子が好きそうなアレンジがあちこちに施してある。

なのに店にいた店員は中年太りのおじさんで、そのミスマッチが妙に笑えた。


「バラの花束をお願いします」

彼女はそう言って三千円を渡した。
おじさんは、はいはいと明るい声で返事をする。人の良さそうな印象を受けた。

「なんか、親しみやすそうなおじさんだね」

俺はこっそり彼女に話しかけた。
「そうだね」、彼女はそう呟いただけで、あとは真っ直ぐ前を向いていた。

その瞳がどこを向いているのかわからなくて、俺は少し戸惑う。

ただその横顔は、凛としていてやっぱり綺麗だった。