インク独自の匂い。
降り注ぐ日差し。
ハルの長い指がページをめくる。
ハルのガラスの瞳が、ゆっくり文字を追う。
少しだけ開いた窓から吹き込む初夏の風が、彼の髪をさらいシャツを揺らす。
甘い香水が、あたしを包み込む。
「……」
どうしてこんなに、胸がざわざわするんだろう。
このままハルを見ていたら、そのワケがわかるんだろうか。
―――……。
はは。バカバカしい。
パッとハルから顔を逸らし、席を立ってその場から離れた。
どうしてこんな気持ちになるかって?
わからなくていいよ、そんなの。
てゆか、そもそも決まってる。
ふとした瞬間に思い出す。
ハルが、王子様なんだって。
仕草が、彼を纏う空気が。
優雅で、品があって……、自分とはまるで違う世界の人なんだって事。
だから、我に返ったあたしはハッとするんだ。
狭い本棚には、天井までびっしりと本が並んでいる。
ゆっくりとその間を歩きながら、タイトルを目で追う。
「……あ」
一冊の本を手に取った。
それは、和菓子の本。
文庫サイズの小さな本に、たくさんの和菓子が載っていた。
篤さん、何してるのかな……。
と、その時。
いきなり顔の横に手が伸びてきたと思ったら、気が付いた時には甘い香水の香りに包まれていた。
え?



