二 億 円

…………




幼い頃から、手に入らないモノなんてなかった。



玩具も、お菓子も、お金も。欲しい時にいくらでも手に入れられた。



女なんて尚更だった。



ただ笑って、綺麗だよ。なんて譫言(ウワゴト)を唱えれば直ぐに身体をさらけ出した。



だけど一つだけ、手に入らないモノがあった。




あれは私が中学卒業後の春、ふらりと立ち寄った公園だった。



桜が満開に咲き誇り、風に舞う花弁たち



その満開の桜の木の下で眠る小さな女の子






真っ白な肌にふわふわと揺れる髪



長い睫毛 真っ赤な唇 ピンクの頬


その姿はまるで洋風のお人形のようで


とても愛らしく、心を奪われた。






「……温かい。」

ピンクの頬に触れると、ほんのりと温かい。生きて入ることが分かった。


「…んー?お兄ちゃんだあれ?おにいちゃんは?雅樹お兄ちゃんはどこー?」


命を吹きかけたかのように動き出したその少女を見て、声を聞いて、胸が高鳴ったのを感じた。


「…僕は、黒田彌生。君の名前は?」



「ひなた!!!かげ ひなた。」


満面の笑顔で名を告げる少女を見て、初めての感情が浮き上がる。







【欲しい。】という感情が。