二 億 円




優しく抱き締められ、動揺は収まっていた。


むしろ心地良くて、このままでいれたら、と思うほど。



彌生様の卑劣さを知っているのに。




それだけ家族の裏切りは私を追い詰めていた。



「さあ、もう夢を見るのは止めなさい。過去を捨て、私の元に居続けなさい。」



「……っ。」


何も言えなかった。



【逃げたい】 という感情はいつしか薄れ、今この瞬間に溺れていたかった。


「お人形さん?私の声、聞こえていますか?」



優しい声色。優しい微笑み。
甘い匂いに酔いしれていた。



何故嘘だと気がつかなかったのだろう。





「私は…──」








後悔するのはもう少し後の話。だけど今でも思うことは一つ。





「此処にいたい。」なんて何故言ってしまったのだろう。