優しく抱き締められ、動揺は収まっていた。
むしろ心地良くて、このままでいれたら、と思うほど。
彌生様の卑劣さを知っているのに。
それだけ家族の裏切りは私を追い詰めていた。
「さあ、もう夢を見るのは止めなさい。過去を捨て、私の元に居続けなさい。」
「……っ。」
何も言えなかった。
【逃げたい】 という感情はいつしか薄れ、今この瞬間に溺れていたかった。
「お人形さん?私の声、聞こえていますか?」
優しい声色。優しい微笑み。
甘い匂いに酔いしれていた。
何故嘘だと気がつかなかったのだろう。
「私は…──」
後悔するのはもう少し後の話。だけど今でも思うことは一つ。
「此処にいたい。」なんて何故言ってしまったのだろう。

