二 億 円




お兄ちゃん。



雅樹お兄ちゃん。



年はいくつ離れていたとか、どんな容姿だったかとか、優しかったとか、何も覚えていないお兄ちゃん。



どうして、不自然なほどお兄ちゃんの記憶だけないのか。



まるで抹消されたかのように。



「忘れたかった…?」

私は、お兄ちゃんのことを忘れたかったの?

どうして?何かあったの?何か思い出したくない出来事が…




『好きでもない男に二度も抱かれるなんて。』


頭によぎった彌生様の言葉。


『お兄さんよりは優しくしてあげますからね。』





考えたくない。そんなはずない。



けれど




連想できる出来事はヒトツだけ。





「私、お兄ちゃんと…──!!」


「お兄さんと、ではありません。お兄さんに、ですよ。貴女はあくまで被害者。一緒にしてはいけません。」



少し厳しい口調で注意する彌生様。



「貴女を最初に抱くのは私のはずだったのに、葛のせいで計画は丸潰れでしたよ。」



そしてお兄ちゃんを酷く憎んでいる彌生様。

関係性が分からなかった。




「彌生様…どうして、私の過去をそんなに知っているのですか?どうして…どうしてお兄ちゃんのこと…」


声が、震える。





いつの間にか日は沈んでいた。真っ暗な夜がやってくる。



真実に打ちのめされる真っ暗な夜が、私に襲いかかる。