男の人は笑顔でした。
その笑顔はとても美しくて、幼い私は胸がドキドキしました。
お父さんと何か会話をした後、若い男の人は家を出て行きました。
だけど覚えているんです。
微かに聞こえた『十年後逢おうね。』の甘い言葉。脳が痺れるように艶やかな視線。
「お兄ちゃん───。」
顔も知らない。何も覚えていないのに
口は勝手に言葉を漏らす。
「───!!部屋から出ては駄目だと「ねえお父さんこの人お兄ちゃん?」」
お父さんは顔をしかめ、言葉を詰まらせた。
そして楽しそうに目を細め、私を見つめる男の人。
期待に満ちた眼差しの私に、父は言葉を探しながら説明をした。
兄ではない、親戚の───君だと。
いずれお前の忘れられない人になる、と。

