コーヒー溺路線

 

これはミカコの精一杯の意地だ。
心ここに在らずの松太郎への精一杯の抵抗なのだ。自分からは絶対に折れてはやらない。
結局決心をするの松太郎だということだ。
 

松太郎は黙々と味のしない料理を口へ運んだ。
 

ああ、彩子に会いたい。
その想いは強くなるばかりである。
それから松太郎はどうにか破談にしようと頭を働かせたのだ。
 


 
「ミカコ、そろそろ時間が」
 


 
そう言って個室の扉から顔を出したのはミカコの父親の有木社長だった。
用事があるので食事を終えてから直ぐに帰るのだという。
 

秀樹は先方の社長と何やら話が盛り上がっている。
松太郎はそれをぼんやりと見ていた。
 


 
「それでは松太郎さん。失礼します」
 


 
ミカコは席を立ってから丁寧に頭を下げた。
礼儀正しく頭を下げる姿がどことなく彩子と重なって見えてしまい、心底自分が彩子に惚れ込んでいるのだと松太郎は再認識をした。
 


 
「松太郎。私は社に一度戻るがお前はどうする」
 

 
「ああ、俺は電車に乗って帰るよ」
 


 
車を用意してもらうこともできたが、松太郎は歩きたい気分だった。
このホテルは駅からさほど離れてはいない距離にある。松太郎はエレベーターでロビーまで下り、ホテルから出てゆっくりと歩き始めた。
 

時刻は午後九時になろうとしていた。