窓のない部屋に、換気扇の回る音だけが響いている。


「彼」は、いつもと同じ場所に座って、いつものように小説を読んでいた。




「おはよう、啓介」


犬飼くんの声に「彼」が反応して、そして、私に気付く。


「……結城さん?」


村雨 啓介くん。

彼が、私とメールしていた犬太郎……?


村雨くんは、私と犬飼くんの顔を見て何かを感じ取ったのか……小説をパタンと閉じて立ち上がった。


「……良太郎、どういうこと?」


普段は「犬飼くん」と呼んでいる村雨くんが、犬飼くんの名前を呼ぶ。




「啓介が、犬太郎なんだよね?」


ためらうことなく放たれた犬飼くんの言葉に、村雨くんはその瞬間、僅かに眉を寄せた。


「……言ってる意味がよくわからないんだけど?」

「犬山 犬太郎。 奈央ちゃんの……いや、ユウの彼氏は啓介なんでしょ?
俺、奈央ちゃんの携帯見たから、犬太郎とユウのやり取りは全部知ってるんだ。

だから学園祭の時、犬太郎の正体を知るために屋上に行った。 そして、そこには啓介が居た」

「……屋上に僕が居た、それだけで判断するのはおかしいだろ。
僕以外にもたくさんの人が居たのに、なぜ僕が犬太郎になる?」