……犬飼くんは、犬太郎じゃない。
じゃあどうして犬太郎のことを?
私、何も話してないのに……なのにどうして犬飼くん犬太郎のことを知っているの……?
「学園祭の時、奈央ちゃん倒れちゃったでしょ? その時に俺、携帯の中を見ちゃったんだ。
奈央ちゃんの親に連絡しなきゃ!!ってテンパって、それで、電話帳開いた時に【 犬山 犬太郎 】の名前を見た。
その名前、なんか凄く気になっちゃって……それで、悪いと思いながらも、犬太郎とのメールのやり取りを見たんだ」
……あの時、犬飼くんは私の携帯の中を見て、それで犬太郎のことを知ったんだ……。
「犬太郎が誰なのかを知りたかったから、俺は屋上に行った。
そして……その正体を知った」
「……え?」
正体を、知った?
「犬飼くん、ちょっと待って。
正体を知った? うそ、そんなわけないよ。
だって犬太郎は、“屋上に行けない”ってメールしてきたんだよ?
あの場所に犬太郎は居なかったんだから、正体がわかるわけないよっ……」
そうだよ。 犬太郎は来なかった。
そして今も、会わずにメールのやり取りをしてる。
なのに、正体がわかっただなんて……。
「犬太郎は居たよ。 奈央ちゃんの、すぐ近くにね」
ドキン
すぐ近く、って……まさか犬太郎は、私の身近に居る人……?
「犬飼くん、犬太郎って……」
「会いたいのなら、明日本人に会わせてあげる。 どうする?」
明日、犬太郎に……?
「会うつもりがあるのなら、明日の朝、いつもより早く学校においで。 俺、校門で待ってるから」
「あ……」
「じゃ、もう帰るよ。
1分って言ったのに、かなり話しちゃった。 ごめんね」
いつもみたいにニコッと笑った犬飼くんは、音もなく道路へと出て、振り返ることなく行ってしまった。



