……って、何馬鹿なこと考えてるの。
村雨くんが私を好きだなんて、そんなの、あり得るはずがない。
ちょっと抱き締められたからって、それが「好きだから」とは限らない。
……限らない、よね……。
「うー……」
なんか、頭の中がグチャグチャだ。
抱き締めるって、どういう時にするもの?
好きだから? ただのスキンシップ? それとも、何か他の理由?
「……わかんない」
「え、お前こんな問題もわかんねーの? って、俺もわかんねーけどな」
「あはは……」
隣に居る青山の馬鹿みたいな声を聞きながら、小さく息を吐く。
教科書の問題じゃなくて、村雨くんの気持ちがわからないんだよ。 なんてことは言えないから、なんでもないのを装いながら教科書を見つめる。
「なぁなぁ、今日はそろそろ終わりにしない?
俺、頭の使いすぎで逆に馬鹿になりそう。
それに、時間的にそろそろ帰った方がいいんじゃね?」
と、青山が携帯を開いて時間を確認する。
そこに表示されていた現在時刻は、なんとなんと、7時半。
「わっ……もうそんな時間!?」
この部屋、携帯の電波が入りづらいからきっと部屋から出たら【 まだ帰らないのか? 】のメールラッシュ……。
暗室を出て、慌ててメールの問い合わせをする。
そうすると、予想通り親からの怒りのメールが数通……。
【 ごめん、友達とテスト勉強してたから、今から帰る。 】
そうメールを返信して、荷物をまとめる。
一刻も早く、帰らなきゃ……!!
「ごめん!! 私、もう帰るね!!」
「え? ちょい待て、送るから」
「一人で大丈夫!! また明日!!」
帰ったら絶対怒られる……。
それに怯えながら、私は一人、真っ暗になった帰り道を走り続けた。



