屋上前には数名の男子生徒が居て、全員が私を見る。
この中に、犬太郎が居る……?
……ううん、多分居ない。
この人たちは、偶然ここに来ただけだと思う。
だって……だって今は、普段閉ざされているドアが開いていて、誰でも屋上へ入れるようになっているから。
だから多分、ドアのところに犬太郎は居ない。
男子生徒たちから視線を逸らし、間を抜けて屋上へ出ると……そこは、予想していた以上の人で溢れていた。
みんなの目当ては、遠くに見える海。
オレンジ色の空と、沈みゆく太陽の光に照らされて輝く海。
とても綺麗な「絵」が、そこにある。
「……凄い」
思わず出たその言葉に、近くに居た「彼」が反応した。
「奈央ちゃん」
「えっ……」
私を下の名前で呼ぶのは、犬飼くんだけだ。
周りに女の子たちは居なくて、犬飼くんは一人で来たらしい。
「夕日を見に来たの?」
「あ、うん……」
「そっか」
昨日ぶりに会った犬飼くんは、海の方へと視線を戻したあと、ポツリと言う。
「……俺は、ここに来れば奈央ちゃんに会えると思ってた。 だから来たんだよ」
それって……犬飼くんは私がここに来るのを予想してたってこと?
それとも、来るのを「知ってた」……?
もしかして犬飼くんは、私が会おうとしてた犬太郎なの……?
と、そう思ったその時。
犬飼くんが「誰か」を見て微笑んだ。
その「誰か」もまた、一人で屋上に来ていたらしい。



