ある日モテ期がやってきた!!~愛されすぎてどうしよう~



そのまま俯いた村雨くんの表情は、よくわからなかったけど……でも、なんだか苦しそう。


「……ネット恋愛っていうのがどういうものか、僕にはわからない。
でも、“会いたい”って言われてるのなら、それはもうネットじゃなくて、現実の話なんだと思う」


カバンの中からノートを取り出して何かを書いていく。
それは、私の気持ちや、青山や犬飼くんの気持ちを表したもの……。


「結城さんは、みんなとの今の関係が好き。 誰かを選ぶなんてことは出来ない」

「……うん」

「渉たちは結城さんに彼氏が居ることを知りながらも、結城さんのことが好き。
で、ネットの彼は……結城さんに実際に会いたいと思うくらいに、結城さんのことが好き」


矢印で結ばれていく私たちの名前。
「好き」という字がほとんどを占めている。


「ネットの彼に、渉たちのことは話した?」

「ううん、何も話してない。
お互いのことは、あまり深くまで話さないから……」


同じ学校、同じ学年に居る犬太郎に、自分の正体を知られるのが怖かった。
だから私は、自分の身の回りのことは何も言ってない。


「……ごめん、もう少し考えさせて。 頭の中が、グチャグチャだ……」

「ご、ごめんね? 急にこんな話、聞きたくなかったよね……」

「いいよ、大丈夫」


メガネを外し、目頭を押さえて俯く村雨くん。

窓のない密室のせいか、なんだか部屋の空気が重く感じる。


「……だい、じょうぶ?」

「うん」


返事はあるけれど、村雨くんは下を向いたまま動かない。

そしてその少しあと、小さな声が暗室に響いた。




「……会ってみるのも、悪くない」