「犬飼くんは、しばらく戻らないと思う」
疲れたような顔をする村雨くん。
その顔を見て、「女の子たちに捕まったんだ……」と気付く。
「渉は助けに行ったけど、多分しばらく戻れないと思う」
「……そっか」
犬飼くんが居ないことに少しだけホッとしながらも、少しだけ申し訳ない気持ちになる。
「私が気を失っちゃったせいで、犬飼くんは外に出たんだよね……」
そうじゃなければ、見つかることはなかったはず……。
「結城さんのせいじゃないよ、自業自得」
「でも……」
「大丈夫。 きっとそのうち、なんでもないような顔で戻ってくるよ」
言いながら、村雨くんは最初と同じ場所に座って、焼きそばのパックを開ける。
「結城さんも何か食べな? 食べないと、元気出ないから」
「うん……ありがとう」
まだあんまりお腹はすいてないけど、それでも村雨くんが言うように、食べなきゃ元気が出ないと思った。
だからたこ焼きをパックを開けて、1つ食べる。
「ねぇ、結城さんは彼氏が居るんだよね」
「あ……うん」
「なのにあの二人、結城さんのこと全然諦めないね」
呆れ顔の村雨くんは、何かを考えるように天井を見上げた。
「彼氏さん、会いには来れない?」
彼氏……犬太郎……。
会いたいって言われてるけど、でも私は多分、会わないと思う。
「遠くに居るから、会えないよ」
「そっか。 彼氏さんとラブラブなとこを見せたら、あの二人は諦めるんだろうけどね」
……ラブラブ、か。
いつも楽しくメールしてたけど、それってラブラブって言えるのかな?
……ううん、ラブラブとは違う。
メールの中では付き合ってる設定だけど、でも、恋人っぽい話なんて全然してない。
結局私と犬太郎は、ただのメル友なんだ。
「……青山にも犬飼くんにも、私がちゃんと態度で示せばいいんだよね」
メールも電話もしないで、会話もしなければそれでいい。
そうすればこんなことにはなってなかったはずだし、面倒なこともない。
「優柔不断だよね、私。
全員に良い顔して、全員にドキドキして、全員に迷惑かけてる」
私は、誰のことが好きなんだろう?
犬太郎とメールしてるのは、凄く楽しい。
青山と一緒に笑い合うのも、凄く楽しい。
犬飼くんとメールするのだって凄く楽しいし、電話で声を聞くとホッとする。
「私、みんなのことが同じくらい気になってる」
私は多分、みんなのことが好きなんだ……。



