まるで小百合ちゃんの気持ちに気付いていないかのように、とぼけた顔の犬飼くん。
犬飼くん、なんで急にこんなこと言ってるんだろう……。
小百合ちゃんはさっきからずっと不安そうな顔してる。
そして……青山の答えが放たれた。
「多分、ないよ」
ない。
小百合ちゃんが隣に居るのに、青山はそう言ってしまった。
……シーンとする部屋の中で、青山は「あー……」と、困ったように頭を掻いた。
「いや、“ない”って言ったら嘘かも……」
「えっ?」
「よくわかんねー」
複雑そうな顔で私を見たあと、小さく笑ってから立ち上がる。
「俺、そろそろ帰るよ。 じゃ、また明日!!」
まるで逃げるかのように……ううん、確実に「逃げるため」に部屋を出ていった。
「あれは、恋愛感情ありだね」
お茶を飲みながらしみじみと言う犬飼くん。
そんな彼に、ワナワナと怒りに震える小百合ちゃんが近づいた。
「お・に・い・ちゃん?」
うわあー……ヤバい、小百合ちゃんがキレる……。
「渉の気持ちを知ることが出来たんだからいいじゃん」
「馬鹿っ!!」
「わっ……ちょっ、さゆ!! 俺は病人だよ!? 殴るのはなし!!」
「へぇ、病人だったんだ? 牛丼2杯も食べてたから、完全復活してるのかと思っちゃった」
にっこりと不気味な笑みを浮かべる小百合ちゃんに、犬飼くんの顔から笑顔が消える。
「いや、あの……ごめん、ね……?」
「絶対許さない!!」
「うわぁっ!! 助けてッ……!!」
……その後、犬飼くんは小百合ちゃんに力の限り叩かれ続けた。



