♪〜♪〜♪〜
手の中で携帯が鳴る。
【 村雨 啓介 】
画面に表示される名前を見つめ、そのままただ、時が過ぎるのを待つ。
こんな状態で、話なんてしたくない。
村雨くんの声を、今は聞きたくない……。
鳴り続けていた携帯は留守電に切り替わるけど、電話はすぐに切れた。
……そしてまた、コミカルな音が鳴り始める。
♪〜♪〜♪〜
村雨くん……。
いくらかけてきても、私はもう電話には出ない。
この公園のように、私もひっそりと消えていく。 そうなりたくて、ただぼんやりと携帯を見つめていた。
「あ……」
数分間鳴っていた電話が止まり、代わりにメールが入ってきた。
差出人はもちろん、今の今まで電話をかけてきていた人、村雨くん……。
【 さゆちゃんと比べること自体無意味だ。 】
……無意味なんかじゃないよ。
私よりいい人はいっぱい居る。
綺麗な人や可愛い人、上品な人や気の利く人。 ほら、いっぱい居る。
【 私なんかよりいい人はいっぱい居るでしょ? 】
【 だから、そう思うこと自体が無意味なんだよ。 】
……意地の張り合い。 そんな風に感じられるやり取りが続いていく。
【 村雨くんには私の気持ちなんてわかんないよ。 】
【 そうかもね。僕を好いてくれる人なんて居ないから、結城さんとは違うだろうね。 】
【 村雨くんには彼女が3人居るじゃん。 その人たちと仲良くすればいいでしょ? 】
【 メル友のことと現実を一緒にするな。 】
【 同じでしょ? 村雨くんは犬太郎で、犬太郎は村雨くんなんだから。 】
ヒートアップするやり取り。
私の言葉にも村雨くんの言葉にも、苛立ちが感じられる。
そして……村雨くんが言う。
【 じゃあ、結城さんは渉と良太郎、二人と同時に付き合えばいい。
そんなことはネットの中なら日常茶飯事だろ?
渉と良太郎ならきっとそれでも喜ぶよ。 】



