そろそろお昼時。
犬飼くんと水族館に行く予定が、今は村雨くんが隣に居る。
「ねぇ村雨くん。 小百合ちゃんは、ずっと青山のことが好きなんだよね……?」
「うん、中学の時くらいから意識してたみたい」
「……私、全然知らなかったから……小百合ちゃんのこと、きっと凄く傷つけちゃったよね」
小百合ちゃんの存在が、青山に対する想いを揺らがす。
私が居なきゃ、小百合ちゃんは青山への想いを隠してる必要なんてないのに……。
「結城さん。 人が人を好きになるというのは、止められないものだと思う。
だから、誰かが悪いとか、そういうのじゃないよ」
……村雨くんも、青山と同じことを言ってる。
“人が人を好きになる、それは止められないものだろ?”
「人の想いとか、自分の想いとか……どうしてこんなに難しいんだろうね。
全部が上手く行けばいいのに、上手く行かないことばかり……」
「それが“生きてる”ってことだから。
嬉しいことや楽しいことだけじゃなくて、ツラいことも悲しいこともある。
色々なことを感じながら生きていくからこそ、想いは膨らむんだ」
隣を歩く村雨くんは、遠くを見つめながら言う。
「その想いが叶うか叶わないかは、誰にもわからない。
わからないけれど、誰かを想いながら過ごした日々は、決して無駄じゃない。
結城さんや渉、良太郎やさゆちゃん、そして、僕の想いも……無駄なんかじゃないって信じてる」
視線が私へと移り、村雨くんはにっこりと笑うけど……その瞳は、なんだか寂しそうだった。
近くのスーパーに来た私たちは、順調に買い物を進めていく。
ペットボトルのお茶数本と缶コーヒー、惣菜やお菓子なんかをカゴに入れ、あっという間に買い物を終えた。
「そういえば、明日はどうする? 僕は、良太郎のところに居ようと思うんだけど」
あ、そっか。 明日は村雨くんと二人で出かける予定だった。
「結城さんも良太郎の隣に居てくれたら嬉しいんだけど、どうかな?」
「うん。 心配だから、私もそこに居る」
「ありがとう」
村雨くんと二人で過ごす時間は大切だけど、今は犬飼くんのことが心配だから、明日も犬飼くんのそばに居よう。
ツラそうな犬飼くんを、放っておくなんて出来ないから。



