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翌日。
今日は犬飼くんと水族館に行く予定で、10時頃に私の家まで迎えに来てくれるらしい。
もちろん家に入ったりはしなくて、近くに来たら電話をもらい、外に出て出発。の、予定だったんだけど……。
ピン、ポーン
9時56分にチャイムが鳴り、お母さんがスリッパをパタパタさせながら玄関へと向かっていった。
そして戻ってきた時に放たれた、驚きの言葉……。
「奈央、犬飼くんって子」
「えっ……」
電話を待ってたのに、まさかチャイムを鳴らすなんて……。
しかもお母さんと犬飼くん、会っちゃったじゃん!!
「昨日の子とは違う男の子ね」
「うっ……」
あ、青山のこと、見られてたんだ……。
「あまり遅くならないようにね」
「う、うん……」
元居た場所に戻ってお茶を飲むお母さんは、何も聞いてこない。
なんか不気味……。
「行ってきます……!!」
逃げるようにリビングを出て、玄関へ向かうと……そこにはいつもと違った姿の犬飼くんが居た。
「おはよ、奈央ちゃん」
「お、おはよ……」
……誰もが振り返るであろうイケメンさんが、今は黒縁メガネによって隠されている。
「犬飼くんって、メガネかけるんだね」
「ううん、かけないけど、昨日の夜に青山が来て置いてった」
「えっ……じゃあ伊達メガネ?」
「うん」
青山が犬飼くんに……ってことは、発信機が埋め込まれてる!?
……そんなわけない、か。 何馬鹿なこと考えてるんだろ。
普通に考えたら、犬飼くんを目立たなくするためだよね……。
思わず振り返って見てしまうようなカッコイイ犬飼くん。
そして、今日はその隣を私が歩く。
もし同級生の子と遭遇したら……噂は一気に広がって、大変なことになること間違いなし。
それを防ぐために、青山はメガネを渡したんだと思う。
でも、やっぱりカッコイイなぁ……。
パッと見はごくごく普通のメガネ高校生。
だけど、何気ない仕草や笑顔、透き通った声……それはやっぱり犬飼くん独特の、人を惹きつけるもの。
……メガネだけじゃ、犬飼くんの姿は隠しきれないかもしれない。



