不覚にも、あたしは先輩に見惚れていた。

だからすぐに断ることが出来なかった。



「うん、考えてみて。…あ、と。そろそろ帰らないとな」


壁掛けの時計は8時を指していた。

そこでやっと意識が現実に戻る。


「送ろうか?」

「いえ、ひとりで帰れます」



「じゃあね。今日はありがとう。助かったよ」


先輩は微笑んでいた。

まるであたしがモデルを引き受けることを確信しているような表情だった。