やがて、別れの鐘が鳴り響いた。
ざわついた中、学兵達は元いた場所へと戻っていく。
廣ももちろん、戻らなきゃいけなかった。
「廣…」
あたしは涙をこらえて、必死に笑った。
「帰ってきたら、また聞かせてね」
廣はそんなあたしを見て、いつもの様に微笑んだ。
そして背筋を伸ばし、ぴしっと敬礼をする。
そのまま踵を返し、列の中へと駆け戻っていった。
…汽笛の音が響いた。
辺りで女性が日の丸を振っていた。
あたしは必死に列車の中の廣を探した。
でも人混みにおされ、廣を見つけることは出来なかった。
煙を吐き出しながら、廣を乗せた列車が通りすぎる。
「廣…」
あたしは小さく呟いて、ようやく涙を流した。
列車の音が遠退く中で、あたしは必死にあのピアノの音を響かせる。
…廣のジャズの音色は、あたしの初恋を優しく包んでくれていた。



