「これ、捻れてるの真友だろ」
ひとつだけ歪んだ赤い糸を目敏く見つけ、廣は笑った。
「相変わらず裁縫苦手なんだな」
…あたしは笑えなかった。
笑えずに、廣を見つめていた。
廣もあたしを見つめ、ふいに真剣な表情をする。
ぴしっと背筋を伸ばすと、「御国のため、精一杯戦って参ります!」と叫んだ。
驚いたあたしの瞳を見つめ、ふいに微笑む廣。
「…なんてな」
いたずらっ子の様にこっそり呟く廣に、あたしは思わず抱きついた。
「真友…」
「絶対来るから!」
ざわついた広場が、あたしの言葉をかき消していく。
「廣が望んだ時代…誰もが自由にジャズをできる日が、絶対来るから!だから…」
濡れた瞳を必死に向けた。
「生きて…生きて帰ってきて下さい」
…廣は強くあたしを抱き締めた。
「必ず帰る」なんて言わなかった。
言える時世じゃなかった。
わかっていて、あたしは望んだんだ。
廣もそれは、十分すぎるくらいにわかっていた。



