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入隊の日が来た。
あたしは母さんと一緒に、内野さんを送り出した時の日の丸を手にして式に赴いた。
広場には廣とそう年の変わらない学生さん達が、列を乱さずに並んでいる。
人が多すぎて、あたしは廣を見つけることが出来なかった。
「天皇陛下、ばんざーいっ!」
太い声が広場に響く。
続いて輪唱する様に、掛け声がこだました。
あたしは最後まで、みんなの様に叫べなかった。
…やがて列が崩れ、限られた時間でそれぞれの別れが始まった。
あたしは人ごみの中廣を探したが、先に廣があたしを見つけてくれた。
「真友!」
廣が叫ぶ。
あたしは声のする方を向いた。
きっちり剃った頭に学帽を被り、制服にはガードルをしっかりと巻いている。
歩兵銃を肩にした廣が、そこには立っていた。
「…親御さんとは?」
「今、挨拶してきました」
「そう…」
母さんはそう言うと、あの千人針を廣に差し出した。
廣はざっと敬礼してそれを受けとる。
「…しっかりね」
母さんはそう言って廣の手を握ると、あたしの肩をぽんっと叩いて人ごみの中に紛れていった。



