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暗い部屋であたしは一人膝を抱えていた。

頭にあるのは、あの日廣が奏でたブルース。

今にも消えそうな音で、あたしのために弾いてくれた。



…どうしてだろう。

どうして廣が、戦わなくちゃいけないんだろう。

廣は銃なんかより、ピアノの方がよっぽど似合うのに。




意味のない考えをぐるぐる巡らせていると、母さんが部屋に入ってきた。

小さく灯りをつける。


「真友子」


あたしの名前を呼ぶと、側に座った。

手には、赤い縫い目が幾重にも繋がった布があった。


「千人針。廣寿君に渡そう?」

そうして針に赤い糸を通すと、力ないあたしの手に握らせた。

ゆっくりと布を受け取り、赤い縫い目をつける。

「あたし…裁縫苦手だからさ。こんなの…廣に笑われちゃうね」

少し斜めになった赤い縫い目を撫でて、あたしはふっと呟いた。

母さんは辛そうに微笑んで、そっとあたしの頭を撫でる。

ひとつ母さんが撫でる度に、廣の笑顔が脳裏に浮かんだ。



「廣…」



赤い糸で埋め尽くされた布を固く握りしめ、抑えきれない涙を流す。

あの祭囃子が、聞こえた気がした。