こう心の中で呟いても陽菜には聞こえない。
『俺、帰るわ』
『ちょちょちょ…待って!』
帰ろうとし、再び裏門を目指そうとしたとき、突然陽菜が俺の腕を掴み、呼び止めた。
『まだ何かあんの?』
『…あのさ…聞きたいんだけど…千夏ちゃんのこと…好きなの?』
なにかに怯えそうな口調で言葉を並べていく陽菜。
それと同時に、あることが蘇る。
それは俺を見つめる陽菜の瞳。
可哀想なものを見つめる、あの瞳。
お前はこの時何を思っていたの…?
『別に好きじゃねぇよ』
『じゃあ…なんでそんな思わせぶりな態度とるの?期待しちゃうじゃん』
陽菜に言われたことが、まるで見抜かれているようで怖くなったと同時に、苛立ちが込み上げてきた。
お前に関係ねぇじゃん。なんで今日会ったばっかの奴に俺の恋愛を口出しされなきゃいけねぇんだよ。


