あいつとはあいつしかいない。
俺の最大の宿敵の慶汰だ。
鍵穴に鍵を射し込み、部屋の中を覗く。
部屋の廊下は真っ暗で、その先にあるリビングは明るかった。
慶汰が帰ってきているようだ。
いつもは深夜過ぎに帰宅するのに、今日は何故か早い。
ふと、足元を見下ろすと、黒色のパンプスが綺麗に並べてあった。
『まさか…あいつもいんの?』
慶汰がいることだけでウンザリなのに、あいつまでいるなんて…。
部屋に入るのを躊躇う俺。
だけど疲れた体を癒やしたい。
心と体が真逆な意見を言う。
俺は溜め息を漏らして、ローファーを脱ぎ捨てた。
そしてバレないように自分の城を目指そうとする。
だが運が悪いのか、タイミングが悪いのか、突然ポケットの中にある携帯がうるさく鳴り響いた。
『嵐帰って来てんの?』
リビングのドアを開けながら、慶汰が俺に気付いた。
俺の肩ががっくりと落ちたのは、言うまでもないだろう。


