プレゼントなんていらないから…叶えてください。
『陽菜…』
陽菜の瞳からは相変わらず大粒の涙が流れている。
慶汰は目を大きく見開いて、驚いているようだった。
そして、陽菜は涙を手で拭いて、その場から姿を消した。
ゆっくりと閉まり始めるドア。
俺は後を追いかけようとして一歩を踏み出そうとしたとき、俺の前に映る影があった。
それは、慶汰の姿だ。
その表情は…
愛しいものを追いかけるような表情だった…。
スローモーションに動く世界。
時間が進むのが遅いと感じた。
甘く広がる慶汰の香水の匂い。
その匂いが俺の足を止めた。
そしてドアが閉まっていく。
かしゃん…というドアが、俺に悲しさを与えた。
もう何も言えないよ。
脱力感で、涙さえ出ないよ。
《俺はあの子を捜している》
慶汰が言ったあの子って誰─…?
もしかして陽菜ですか?


