『…そっか。ちゃんと決めてんだな。安心した』
それだけ?
なんで美大に行きたい理由とか聞かないんだよ?それに反対はしないのかよ?
すげぇ学費かかるんだぞ?
慶汰は必ず理由を聞くと思っていた。
だからちゃんと答えを用意していたのに。
考えていた答えの存在が意味なくなってしまった瞬間だった。
『それだけかよ?』
『他に言うことあるか?頑張れよ。嵐がちゃんと将来を考えてくれていて嬉しいよ』
ブラックコーヒーを口へと運ぶ慶汰。
飲むのは俺じゃないけど、その苦さが分かる気がする。
やはり慶汰は大人だ。
だって俺は牛乳だから。
『反対するかと思ってた』
『反対なんかするかよ。これで俺も安心して色んな仕事が出来るな。』
まるで父親のような発言に、俺は疑問を持った。
そしてあることにも疑問を持つ。
それは昨日まで慶汰の薬指にあった、ペアリングだ。


