…は?キス?
意味が分からない。
ていうか誰がこんなことを書いたんだよ?
しかもマジックで。
前にここに乗ったカップルだろうか?
それにしても嫌な文字だな。
どくん…。
キス─…。
俺は陽菜と一度もキスをしたことがない。
そして陽菜は前にこう俺に言った。
《思い出に残るようなキスをしたい》と。
もし、ここでキスをしたら…思い出に残りますか?
もうすぐ頂上へと着く。空に近いところで、口づけをしてはダメですか?
『陽菜、これ見てみろよ。誰が書いたんだろうな?』
俺はその文字を指差して、陽菜に言う。
陽菜は俺の指差す方を見て、すぐに顔を下に向けた。
文字…見えたよね?
『…嵐…陽菜…』
『ん?』
俺の目の前で体を小さく丸める陽菜。
下を向いているから表情までは分からない。
月明かりは、陽菜の表情までは照らしてくれないようだ。
そして陽菜は顔を上げて俺を真剣な瞳で見つめた。
『陽菜のファーストキスを奪ってはくれませんか?』


