甘くもなく、
きつい匂いでもなく。
甘酸っぱさは丁度よくて、まるで恋の匂いのようだった…。
紘人は俺の隣で立ち止まり、俺を見下ろす。
その視線に気付いた俺は、視線を徐々に上へとずらしていった。
『昨日ぶりだな、嵐』
『そう…だな』
なにが言いたいんだよ。
『これから色々世話になると思うけど宜しくな』
…どういう意味で?
喉に言葉が詰まってしまって、返事をしなかった。
紘人が発する言葉のひとつひとつに、違う意味がありそうで。
担任の話が進められていく。
新しくクラスの仲間に入った紘人は、俺のように心に傷を負った、もう一人の人間だった─…。
陽菜を見ようとすると、紘人まで視界に入る。
だけど陽菜を見たくて、陽菜と話がしたくて…。
好きという気持ちがコントロール出来ないくらいになってきていた。


