あたしは息を潜めて、ゆっくり匍匐前進しながらドアに向かった。ゴールはあそこだ。頑張れ、あたし。先生が起きたらTHE ENDだぞ。
「ふァあ……んー! よく寝た!」
男の人の声だ。きっと先生が目覚めたに違いない。あたしは、生唾を飲み込み、さらに息を潜めて匍匐前進を試みる。バレませんように、バレませんように。
「すっかり寝ちまったなー。……で、なんでそんなとこで匍匐前進してんだ?」
ぎゃー!! 思いきりバレてるー! 今にも爆発しそうな心臓を抑えながら、ゆっくり声の方へと顔を向ける。
「えーと、敵から身を潜めてまして……」
「敵?」
わけわかんない事口走っちゃったァァ! 急いで口を塞いだけど、時すでに遅し。先生の眉間に皺がよっている。もう死を受け止める事しか出来ない……! あたしは目をギュッと閉じた。来るなら来い!!
「アハハ、お前面白い奴だな」
「へ?」
不意に笑い声が聞こえて、驚きで変な声が出た。恐る恐る目を開けてみると、寺脇先生が笑っているのが見えた。あれ? 怒ってないみたい。
「でも、服が汚れるぞ?」
「あ、はい」
そう言って慌てて立ち上がると、先生は席から立ち上がって、フワっと白衣を揺らしながらあたしの元まで来た。

