綾香が裕二の部屋に入ると裕二はゆっくりと綾香を見た。

「綾香」

綾香はほっとする。

「裕二君」

裕二の座っているソファに綾香も腰掛ける。

「皆知ってたの?」

裕二はしばらく間をあけてうん、と小さく言った。

「学校中が平沢の噂してる。俺、聞きたくなかったけど、どうしても耳に入ってきて…辛かった。」

「裕二君…」

綾香は裕二の手を握った。

「俺、教師やめようかな」

綾香は驚いた。

「そんな…」

その時裕二の母が夕飯を運んでくる。

「あっすいません。」

慌ててそれを受け取る綾香。

「裕二も食べてね」

母が遠慮がちに言った。

すると裕二はポツリと言った。

「…いらない」

「駄目よ裕二君、食べないと。お昼は食べたの?」

「いや、食べてない」

「裕二、辛くても食べないと駄目よ」

厳しく母が言ったので裕二は「わかった」と一言言った。

「ちゃんと食べるのよ」

そう言って母は部屋を出て行った。